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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)1980号 判決 1987年5月28日

控訴人 武藤新次

右訴訟代理人弁護士 村上守

被控訴人 平塚信用金庫

右代表者理事 笹尾弘

右訴訟代理人弁護士 外池泰治

主文

原判決のうち被控訴人の控訴人に対する請求に関する部分を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、

(一)二〇〇万円及び内金一三〇万円に対してはそのうち五万円ずつにつきそれぞれ昭和五八年一月から昭和六〇年二月までの各月の二七日から起算して、内金七〇万円に対しては昭和六〇年三月二三日から起算して、各支払い済みまで年一八・二五パーセントの割合による金員を、

(二)二四九九万二六二二円及びこれに対する昭和五八年一月二一日から支払い済みまで年一八・二五パーセントの割合による金員を、

それぞれ支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

理由

一  いずれも、控訴人の署名及び名下の印影が控訴人の印章によつて顕出されたことに争いがなく、このことと原審証人長屋正の証言とによつて控訴人作成部分は真正なものと認められ(原審における控訴人本人尋問の結果も右認定を動かすに足りない。)、その余の部分は右長屋正の証言によつて成立を認めることのできる(ただし、甲第二号証中の官署作成部分は成立に争いがない。)≪証拠≫、同証言及び原審における控訴人本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば、請求原因第一項中期限の利益の喪失に関する約定の点を除いて、請求原因の全事実を認めることができ、≪証拠≫中右認定に反する部分は右認定に供した証拠に照らしたやすく措信しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  被控訴人は、請求原因第一項の金銭消費貸借につき、債務者が分割弁済金の支払いを遅滞したときは直ちに期限の利益を失う旨の約定があつたと主張するが、これを認めるべき証拠はなく、かえつて≪証拠≫によれば、昭和五六年四月一六日に越水孝之及び控訴人と被控訴人との間で作成された信用取引約定書(甲第一号証)の第五条第二項には、債務者たる右越水らが債務の一部でもその履行を遅滞したときは、被控訴人の請求により被控訴人に対する一切の債務につき期限の利益を失う旨が定められており、右条項は、その文言自体及び同条第一項の文言との対比からいつて、被控訴人の債務者に対する催告をまつて期限の利益喪失の効果を生じさせる趣旨のものと解されるところ、本件訴状が控訴人に到達した日であることが記録上明らかな昭和六〇年三月二二日までの間に被控訴人において右催告をしたことについては主張、立証がない。したがつて、請求原因第一項による被控訴人の請求は、貸付金残額二〇〇万円及び昭和五八年一月から昭和六〇年二月までの間の毎月の分割弁済金各五万円(その合計額は一三〇万円)に対するその弁済期の翌日から、右訴状送達当時期限未到来だつた元本残額七〇万円に対する訴状送達の翌日から、各支払い済みまでの遅延損害金を求める限度で理由がある。

三  以上によれば、被控訴人の請求原因第一項による請求は、貸付残金二〇〇万円及び内金一三〇万円に対してはそのうち五万円ずつにつきそれぞれ昭和五八年一月から昭和六〇年二月までの各月の二七日から起算して、内金七〇万円に対しては昭和六〇年三月二三日から起算して、各支払い済みまで約定の年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金を求める限度で正当として認容し、その余を失当として棄却すべきであり、請求原因第二項による請求は、全部正当として認容すべきである。よつて、これと異なる原判決を右のとおり変更する

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 片桐春一)

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